大阪地方裁判所 昭和55年(ヨ)418号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
本件の申請人らはいずれも本件建物の店舗部分の賃借人(いわゆるテナント)であり、被申請人はその賃貸人である。被申請人は、右建物が火災にあつたため、これを解体してその跡地に新たに建物を建築することを計画した。これに対し申請人らは、各自が賃借している店舗部分につき被申請人が立入、毀損等により申請人らの使用、占有を妨害することを禁止する旨の仮処分を申請した。本件仮処分決定は、右申請を認容し、かつ、右決定の執行停止または執行処分の取消を被申請人に許せば、本件建物が解体されるため、申請人らの各賃借権は目的物の滅失により消滅するけれども、申請人らは被申請人が建築を予定している建物につきほぼ従前と同一内容の店舗賃貸借契約を結び得る立場にあり、本件建物は社会的、経済的にみればこれを取毀して建替えざるを得ない実情にあるから、申請人らの各賃借権はなお金銭的補償をもつて終局的な満足を達し得べきものということができ、一方、被申請人において本件建物の解体、建替ができないとすれば、莫大な損害を蒙ることが明らかであるから、民訴法七五九条にいわゆる特別の事情の存する場合であるとして、被申請人のために解放金額を定めたものである。
仮処分については、原則として同法七四三条の準用を否定しつつ、その被保全権利が金銭的補償を得ることにより終局の目的を達し得る場合等特別事情が存する場合には同法七四三条を準用し、仮処分命令中にその執行を免れることを得せしめるために被申請人が供託すべき金額(解放金額)を記載し得るとするのが判例・通説(大判大10.5.11民録二七輯九〇三頁、西山・保全処分概論一五二頁等参照)である。本決定も判例・通説の立場から仮処分命令中に解放金額を定めた一事例として紹介する。
【判旨】
本件仮処分決定につき被申請人のために解放金額を定めた理由は次のとおりである。
主文第2項によつて、被申請人に本件仮処分決定の執行停止またはその執行処分の取消しを許すときは、申請人らの別紙物件目録記載の各店舗部分に対する賃借権は、同目録記載の建物(以下、旧ビルという。)の解体に伴う目的物の滅失ということで消滅するが、被申請人は申請人らに対し、旧ビル解体後その跡地に建築を予定している新ビルにつき再度賃貸借契約を締結することを約し、その内容においても、賃貸借部分については旧ビルのそれと立地条件において同程度の場所、面積において同面積を保証することを確約し、保証金については旧ビルの賃貸借のそれとほぼ同額、賃料については新ビルの一般新規テナントのそれに比し割引した額とする、という条件を提示していること、申請人らを除く旧ビルのテナントは、損害賠償金の内金として高額の金員を受領している者が一部あるが、全て右条件で新ビルに入店することに同意していること、旧ビルは周知のとおり昭和四七年五月の火災により、その中で一一八名もの死者を出す等社会、経済的にみれば、これを取毀し新ビルに建て替えざるを得ない実情にあり、このことは少なくとも申請人らを除く旧テナント全てが望んでいることが窺える。そうすれば、申請人らの右各賃借権はなお金銭的補償をもつて終極的な満足を達し得べきものといえるものであり、一方被申請人において旧ビルを取毀して新ビルを建築することができないとすれば、莫大な損害を蒙り、到底堪え得るところでないことは明らかであるから、民訴法七五九条にいわゆる特別の事情の存する場合に該当するものと認めることができるからである。
(最上侃二)